マンションやアパートでの生活で、子供の足音が下の階に響いていないか、気になることはありませんか?
防音アドバイザーである私も、一児の息子の育児に奮闘しているのですが、毎日走り回ったり重いおもちゃを床に叩きつけたりしてヒヤっとすることがあります…。

実は、子供が飛び跳ねる際には、体重の10倍もの力が床に発生する(※)と言われており、その衝撃は200kgにも及ぶことがあるんです…。
この記事では、子供が走り回る理由や足音が伝わるメカニズム、解決策についてお話します。
下記のYoutubeでもお話しています。
家で子供が走り回る理由
子供の足音を響かせない方法について考える前に、なぜ子供は家で走り回ってしまうのでしょうか?(たとえ言い聞かせたとしても…)理由を知ることで何かヒントが得られるのでは?と思い、調べてみました(^_^;)
子どもが走り回る理由はさまざまですが、大きな理由の一つに「体の感覚を確かめたい」「動くことで自分の進んでいる感覚を得たい」という気持ちがあると言われているそうです。
これは専門的に 「感覚欲求」 や 「前庭欲求」 と呼ばれ、それぞれ次のような意味を持ちます。

感覚欲求…筋肉や関節に刺激を与えたいという欲求。これが満たされないと落ち着かなくなることがある。
前庭欲求…体の傾きやスピードの変化を感じることで、自分が動いている実感を得たいという欲求。
そのため、子どもが元気に動き回るのは、自然な欲求を満たすための行動とも言えるそうです。
子供が走り回るとつい叱りそうになりますが、食欲や睡眠欲などと同じように自然な欲求だと知ると怒りは静まりますし、上手く付き合っていく方法は何だろう?と考えられるようになりますね。
子供の足音はどのくらい伝わるのか?
子供が走る時に床にかかる重量は体重の10倍
ただ実際のところ、子供の足音で下の階に音が伝わっていないか心配になるのではないでしょうか?
ここからは子供の足音はどのくらい伝わるのか、音が伝わるメカニズムについてお話します。
一般的に、子供が飛び跳ねると体重の約10倍の力が床にかかると言われています。つまり、20kgの子供が飛び跳ねると、約200kg相当の力が床にかかる可能性があるのです。これは、100kgのメスゴリラが歩く時にかかる体重と同等になります…!(想像以上に大きな衝撃ですね…)

足音の衝撃をイメージしやすくするために、音の大きさ(dB:デシベル)で比較してみましょう。
音の大きさ(dB) | |
30dB | ささやき声、静かな環境 |
40dB | 小さめの話し声 |
50〜70dB | 子供が飛び跳ねた際に下の階に伝わる音 |
60dB | 目覚まし時計 |
70dB | 騒々しい事務所・掃除機 |
80dB | 地下鉄の車内 |
普段家で過ごす際に「静かだな」と感じる音は30dB台程度になります。それに対し、子供が飛び跳ねた際に階下に伝わる音は、50〜70dBに達することがあります。特に70dBになると、体感としては「とてもうるさい」と感じて耐えられないレベルになることもあります。
ご自身の家でどのくらいの音が出ているのか気になる場合は、スマホの騒音測定アプリを利用してみるのも良いでしょう。
固体音と空気音
それでは具体的に足音はどのようにして下の階に伝わるのでしょうか?音の伝わり方を説明する上で2つの音の存在についてご説明します。1つ目が空気音、2つ目が固体音になります。
空気音…空気を介して伝わる音。人の声、楽器の音、車の走行音などは空気音。
固体音…固体を介して伝わる音。床を歩いた時の音、壁を叩いた時の音など。固体音は空気中に放射される際に空気音となる。

子供の足音の場合、固体音に分類されます。イメージとしては、マンション上階で子供が走り回る→振動が床材やコンクリートスラブを伝わり固体音となる→下の階の天井に伝わり振動する→振動が空気を振動させて空気音として聞こえます。
固体音は空気音に比べて減衰が難しく、遠くまで音が伝わってしまう可能性が高いです。
ピアリビングでもお客様から「上の階の方から子供の足音で苦情を言われたんですが…」とご相談いただくケースが少なくありませんが、これはまさに床の振動が壁や天井など、様々な場所に伝わっていることが分かります。
足音が伝わりやすい床の特徴
子供の足音が下の階に響く原因は、建物の構造も大きく影響します。特に、床の遮音性能は、共同住宅での快適な生活を左右する重要な要素です。ここでは、床の遮音性能を左右するスラブ厚・工法の2つに焦点を当て、足音が伝わりやすい床の特徴を詳しく解説します。
スラブ厚は200mm以上が目安
スラブ厚とは、床のコンクリート部分の厚さのことです。一般的に、スラブ厚が厚いほど遮音性能が高くなります。スラブ厚は200mm以上を目安にしましょう。200mm以上のスラブ厚があれば、ある程度の重量衝撃音(子供の走り回る音など)を遮断する効果が期待できます。ちなみに築年数が古い物件は、スラブ厚が150mm~180mmと薄い場合があります。可能であれば、新築または築浅の物件を選ぶことをおすすめします。
直床の方が大きな衝撃音には効果的な可能性がある
床の工法には、コンクリートスラブの上に直接床材を貼る「直床工法」と、コンクリートスラブの上に支持脚と床下地を設け、その上に床材を貼る「二重床工法」の2種類があります。

直床工法:コンクリートスラブに直接床材を貼るため、床の剛性が高く、振動が伝わりにくくなります。また、二重床のような太鼓現象が発生しないため、重量衝撃音の遮音に効果的な場合があります。
二重床工法:床スラブと仕上げ材の間に空間を設けた構造で、配管スペースを確保しやすいというメリットがあります。しかし、この空間が太鼓現象を引き起こし、特定の周波数の音が強調されて聞こえることがあります。
一見、二重床工法の方が遮音性が高いように思われがちですが、子供が走る音のような大きな衝撃が加わる音に対しては、直床工法の方が効果的な可能性があります。
走り回る子供の解決策
子供が走り回る理由と足音が伝わるメカニズムをお伝えしましたが、ここからは走り回る子供の対処法を3つご紹介します。
①子供の筋肉や関節を揉んであげる
筋肉や関節を優しく揉んであげることで、子供の感覚欲求を満たすことができます。身体的な不快感が軽減されて、走り回っていた子供の動きがピタっと治まることがあるそうです。
②その場で駆け足やジャンプをさせる
安全な場所で思い切り体を動かせる機会をつくることも一つの方法です。そうすることで「前に進んでいる」という前庭感覚を満たすことができます。公園や児童館など、広い場所で遊ばせるのも効果的です。
自宅にトランポリンを導入してみるという方法もあるなと思いました。「ここだったら飛び跳ねても大丈夫!」という場所を作ると良さそうですね。
③防音マットを敷く
1.2.とは異なる切り口になりますが、お部屋に防音マットを導入して防音性を高める方法も考えられます。フローリングだと下の階に音が伝わってしまうため、防音マットを敷くことで現状よりも下の階に伝わる音を抑えることが可能になります。
防音マットを選ぶ際のポイント
防音マットと一言で言っても様々な商品が存在するので、選ぶ際に迷ってしまう方も多いのではないでしょうか?ここでは防音マットを選ぶ前に知っておきたい防振の考え方をお伝えします。
1.防振とは
防音マットを選ぶ前に、まず「防振」という考え方を理解しておきましょう。防振とは、振動源から発生する振動が床や壁に伝わって他の場所に伝わらないようにすることです。
効果的な防振対策を行うためには、以下の2つの観点から対策を講じることが重要です。

①音源対策…足と床が接する際に発生する音を抑制する対策
②伝播経路対策…足音によって振動した床の振動が他の場所に伝わるのを抑制する対策
2.防音マット選びの3つの基準
上記の音源対策と伝播経路対策の2つの観点を踏まえ、防音マットを選ぶ際には、以下の3つの基準を考慮することをおすすめします。
①表面が柔らかい素材を選ぶ
音の発生源である足裏よりも柔らかい素材を選ぶことで、床に伝わる振動を吸収し、音源対策に有効です。フローリングよりもカーペットや畳がおすすめです。遮音等級の高い床材や、クッション性のある床材を選ぶようにしましょう。
②弾性が高い素材を選ぶ
音源対策をしても振動を完全に防ぐことは難しく、床や他の場所に伝わってしまう可能性があります。そのため、ゴムやフェルトなど弾性が高い素材を選ぶことで伝播経路対策が可能になります。
③重量がある素材を選ぶ
伝播経路対策に有効なもう一つの方法として、重量がある素材を選ぶことも挙げられます。重量があればあるほど発生した振動が他に伝わらないようにすることができます。
3.軽量衝撃音と重量衝撃音
防音マットを検討される方は、「軽量衝撃音(ΔLLもしくはLL)」、「重量衝撃音(ΔLHもしくはLH)」という言葉を目にすることがあるかと思います。その中でも特に多いのが「軽量衝撃音(ΔLLもしくはLL)」のはずです。2つの音は以下のように定義されます。

軽量衝撃音(LL):スプーンを落としたり、椅子を引いたりするような、比較的軽い衝撃によって発生する音です。高音域の成分が多く、比較的減衰しやすいとされています。
重量衝撃音(LH):子供が飛び跳ねたり、走り回ったりするような、重い衝撃によって発生する音です。低音域の成分が多く、減衰しにくいため、遠くまで響きやすいとされています。特にマンションなどの集合住宅では、この重量衝撃音が問題となることが多いです。
軽量衝撃音のみを考えるのであれば、「表面の柔らかさ」や「高い弾性」を満たした防音マットであれば高いレベルを満たすことは可能です。
ただ子供の足音は、軽量衝撃音ではなく、どちらかというと重量衝撃音に分けられます。そのため、子供の足音対策にはΔLLはそれほど参考にならず、ΔLHを参考にする必要があります。
ただし、重量衝撃音は床スラブの厚さや材質、二重床構造の有無など、建物の構造に大きく依存してしまいます。同時に、重量衝撃音で防音マットに試験を行っても数値が出ないという状況があり、ΔLHで実験を行っていない会社が殆どなので、実際のところはΔLHでの判断ができないのが現状です。
防音マットを選ぶ際は軽量衝撃音だけを見るのではなく、3つの基準である「表面が柔らかいか」「弾性が高いか」「重量があるか」の3つが満たされているかを考慮するようにしましょう。
ピアリビングでおすすめの防音マット
ピアリビングでは、様々な種類の防音マットを取り扱っていますが、特におすすめなのは以下の3つです。
1.快適防音マットウッド

防音性:ΔLL-6
サイズ:70cm×160cm・190cm×190cm・190cm×240cm
ベルギー材の表面材を使用した木目調の防音マットです。見た目はフローリングのような木目調ですが、表面が柔らかいため音源対策に効果的です。また、一般的なマットの目付(1㎡あたりの繊維や素材の重量)に比べ、2倍程度密度が高く重量があるため伝播経路対策にも有効です。子供が食べこぼしてもさっと拭くことができてお手入れが楽々なことも魅力の一つです。
2.防音タイルカーペット「静床ライト」

防音性:LL-40
タイル状になっているため、必要な場所に必要な枚数だけ敷くことができる防音タイルカーペット。汚れたら手洗いすることもできるので、お手入れも比較的楽々です。ピアリビングではロングセラーの商品となっています。ただし静床ライトは通常の足音には効果的ですが、子供の足音対策には不十分な場合があります。そこで3.下敷き用防音マット「足音マット」との併用をおすすめしています。
3.下敷き用防音マット「足音マット」

防音性:ΔLL-6(静床ライトとの併用で)
既存のカーペットやラグの下に敷くことで、防音効果を高めることができます。手軽に防音対策をしたい方におすすめです。カッターやハサミでカットができるので、必要な範囲だけ敷くことができます。一般的なアンダーラグに比べて密度が高いので、ピアノの防音対策として取り入れる方も多くいます。
ピアリビングの防音マットで防音実験してみた
「防音マットを敷いたらどのくらい軽減されるのか耳で確かめたい」
そのように思う方は多いかと思います。そこで、過去に行った防音マットの防音実験をご紹介します。
築30年の木造アパートの1・2階で、ふーこ社長がロフトの階段から飛び降りた時の音は対策なしと対策ありだと、どのくらい防音できるのか検証を行いました。

※実験の様子は下記の動画でもご紹介しているので、良ければご覧ください。(動画では計4つの実験を紹介します)
実験方法
①2階でピアリビングのふーこ社長がロフトの1番下(床から20cm程度)から、対策なし(フローリングの上)と防音タイルカーペット「静床ライト」+下敷き用防音マット「足音マット」2重敷きの上に飛び降りる
②1階で防音アドバイザーかぶちゃんが騒音計で計測する
※今回防音性が低い物件であったため、下敷き用防音マット「足音マット」を1枚ではなく2枚重ねで実験しました。
測定結果
周波数 | 対策なし | 対策あり |
63Hz | 29.3dB | 28.1dB |
125Hz | 53.6dB | 37.9dB |
250Hz | 43.7dB | 35.3dB |
500Hz | 42.6dB | 31.3dB |
1,000Hz | 35.0dB | 28.7dB |
2,000Hz | 27.4dB | 24.6dB |
4,000 | 24.6dB | 19.5dB |
平均 | 56.3dB | 46.4dB (マイナス9.9dB) |
考察
・「ドスン!」と聞こえていた振動や音が遠くから聞こえているようになった
・最も大きな音を発していた125Hzの周波数で53.6dB→37.9dB(15dB)まで軽減された(感覚として10dB減ることで半減したような聞こえ方になります)
・平均で10dB程軽減された。ただし実験場所の物件の防音性能がそもそも低いため、対策ありでも音自体は聞こえていた。
まとめ
いかがでしょうか?家で子供が走り回るのは自然な欲求であるからこそ、叱るだけではなく上手く付き合っていくことがお母さんお父さんの心の余裕にも繋がりますよね。
最後に子供の足音対策についてまとめさせていただきます。
・家で子供が走り回る要因として、「感覚欲求」「前庭感覚」による欲求が大きいこと
・これらの欲求をかなえる方法を試すことで、走り回っていた子供がピタっと治まる可能性があること
・部屋の環境を整えるために防音マットを導入してみること
・防音マットを選ぶ時は、防振の考えを踏まえて「表面が柔らかいか」「弾性が高いか」「重量があるか」の3つの観点で選ぶこと
・(可能であれば)足音が伝わりやすい築古物件を避けて新築や築浅物件に住むこと
私は子供は飛び跳ねる時に床にかかる重量が10倍になると聞いた時、個人的にはとても衝撃を受けました…!確かに下には響いているんだろうなと思いながらも、まさかここまでとは…。
子供の「身体を動かしたい!」という感覚を生かした工夫、お部屋に防音マットを取り入れる方法など、解決策は様々あるんだなと改めて感じました。
特に前者については、保育園や幼稚園の先生は詳しいと思うので相談してみるのも良いなと思いました。
個人的には自宅にトランポリンを置いて、子供が飛び跳ねても良いスペースを準備するのはとても良いアイデアなので取り入れてみようと思います。
もしこの記事が少しでも参考になれば幸いです。